book review

top page

 
よみがえる幻の染色 出雲藍板締めの世界とその系譜

 
 出雲歴史博物館(島根)で2008年に開催された同名企画展の図録。
 出雲地方は、江戸時代、綿花の一大産地であった。当時、陸地化した出雲平野の塩分濃度が高く、稲作に適さなかったからだという。そして当地はまた藍染が盛んであった。

 この出雲に江戸の末期、四十年間だけ板締めの藍染が行われていた。
 古代日本で夾纈(きょうけち)と呼ばれた板締めの技法。正倉院にも何点か伝わり、その源流はインドか中国と言われている。しかしながら纐纈(こうけち /絞り染め)や臈纈(ろうけち/ろうけつ染め)といった技法ほど一般化せず、幻の染色というイメージが…。
 先年、出雲の旧家から多量の藍板染め板木が同館に寄贈されたことにより、県教育委員会が復元研究を行い、その成果を企画展として同館で開催したという経緯である。

 もともと「幻の染色」であり、木綿に藍染めという庶民向けの衣料だったこともあり、現存している布資料は非常に少ない。同館の一角に藍板締めの展示ケースがひとつ設けられているが、残念ながら布の実物は展示されていない。江戸期だから手紡ぎ手織りの木綿布に染色されたはずゆえ、実物がどんなものであるか非常に興味あるところだ。(ただ、布は触ってこそ価値あるものだから、見るだけの展示はまことに面はゆいものであるが)
 この図録で見る限り、たとえば芹沢C介の収集だという藍板締めの布切れは、そのシンプルな力強さがアフリカの布を思わせるものがあり、まことに魅力的だ。
 寄贈された出雲旧家の板木一覧も圧巻で、江戸期の木綿布に転写されたらどういう表情になるのか見てみたいものだ。
 教育委員会による同技法の復元研究も、かなり熱が入っている。板木の製作はもとより、鳥取の製織工房に木綿布の手紡ぎ手織りを委嘱し、実際に藍板締めの染色を再現している。昔の人はこんなものを身に纏うことができたわけだから、ちょっとうらやましい。
 もう13年も前の図録であるが、同歴史館のミュージアムショップで入手できる。
 
 
 ハーベスト出版 952円+税。(2021/1/17記)


 
紅露工房シンフォニー

 
 沖縄西表島・紅露工房(くーるこうぼう)についての、初のまとまった書籍。
 著者は石垣昭子+山本眞人。
 石垣昭子さんは言うまでもなく、紅露工房の主宰者。
 山本眞人さんは、需要研究所・代表で、紅露工房と長い繋がりのある人だ。

 紅露工房に関心ある人にとっては、とにかく面白く、必読の書。
 工房の基本的なポイントから始まり、そこに至るまでの経緯が昭子さんの口から語られる。
 志村ふくみさんや四方正義さんとの関わりなど、興味は尽きない。
 更にはこの紅露工房というユニークな存在を、ひとつの先行モデルとして、現代の日本ひいては世界に生かすことはできないか、山本眞人さんは考察を加える。
 最終章はその実例が示される。すなわち紅露工房で学んだ人々が、各地でそれぞれ風土に根ざした活動を試みている。その一例として、不肖ganga maki工房もご紹介に与っている。

 最終章の末尾、昭子さんは以下の言葉で本書を締めくくっている — 「祈りのある暮らしと手仕事の場が完璧につくられているガンガ・マキ・テキスタイルスタジオには、インドの歴史と伝統に根ざすチャルカの思想を実感する。ここで生まれる布たちには多くのメッセージが含まれており、今後、それが世界へと発信されていくものと確信する。真にモノ創りする人にとってのユートピアであった」
 誠に過分なお言葉を頂戴し、工房の実態を知る者としては赤面の至りであるが、少しでもそうした様態に近づけるべく微力を尽くす所存にて候。
 

 
 地湧社 2000円+税。竹林Shopでも販売。(2019/8/11記)

 


 
STDIO MUMBAI / 写真集&スタディブック

 
 ganga新工房を設計したスタジオムンバイの写真集&スタディブック三種が刊行。

 右写真・左端の大きな本は、写真集・PEOPLE OF GANGA MAKI(ガンガーマキの人々)。
 文字は扉の数行だけ。写真のみのストイックな構成がいかにもスタジオムンバイらしい。敷地の縄張りから始まり、建築の様子、現在の姿など、オールカラー228ページで、ganga工房の人々を描く。右写真手前はその中の一枚。合い言葉はaffection(慈しみ)。9,000円+税。Maki Textile Studioオンラインショップにて販売

 真ん中の小型の本は、COLOR OF LIME(漆喰の色)。スタジオムンバイのスタディブックだ。一文字もなく、74ページ、ひたすら、ganga工房の漆喰壁や床のマチエールを写真で追う。4,000円+税。Maki Textile Studioオンラインショップにて販売

 右端の本は、STUDIO MUMBAI+MANIERA。マニエラというのは、ブリュッセルのギャラリーだ。先ごろベルギーにあるこのギャラリーでスタジオムンバイの展示会が開かれる。このスタディブックは、loreすなわち「手の伝承」を主題とし、「煉瓦」や「泥」など六部、225ページにわたって写真のみによって構成される。そのうち「チャーパイ(ヒモで編んだベッド)」と「マリーゴールドのネット」でganga工房が登場。6,000円+税。Maki Textile Studioオンラインショップにて販売

                     (2017/6/29記)

 


 
新井淳一 / 布・万華鏡

 
 今月(2012年3月)、発売されたばかりの、新井淳一評伝。

 新井淳一氏は、アライラマとも呼ばれ、真木千秋の先生にあたる人。
 日本を代表するテキスタイル・プランナーだ。
 もうじき80歳を迎えるが、その創造性は今も枯れることがない。

 本書は「新井淳一研究の基礎資料」を目指している。
 著者・森山明子さんは、デザインジャーナリストで武蔵野美大教授。
 時系列というより、様々な観点から氏を分析・紹介している。
 氏にまつわる数多い資料を駆使しての労作である。おそらく新井氏との合作とも言える一冊であろう。
 氏の展示会を二度開催した当スタジオであるが、本書を一読すると、氏の活動の多彩さ、その及ぼした影響の深甚広汎なことに驚くばかりである。目も綾な新井布の背後には、こうした事象が存在していたのだ。
 ついでではあるが真木千秋や私ぱるばの名前も出てくる。本書中、「2010年春、北京にて」という項の中で、「いといと雑記帳を覗いてみてください」というアライラマの手紙も紹介されている。その箇所はこちら
 

 図版多数。
 新井氏の布を愛する人には必読の書。
 造本・杉浦康平+佐藤篤司

 美学出版 4200円+税。竹林Shopでも販売。(2012/3/26記)

 



ganga book

 
 本日できたばかり、ホヤホヤの小冊子。ganga book。

 2009年末、Maki Textile Studioは、インド北部のウッタラカンド州デラドン市の郊外に新工房を設ける。ウッタラカンド州はヒマラヤの麓にある小さな州だ。ガンガー(ガンジス川)源流の変化に富んだ地域を占めている。
 工房の名前はズバリ、ganga。工房主はMaki Textile Studioでシェフを務めていたラケッシュ・シン君だ。ここウッタラカンドは同君の両親の出身地であり、祖父母は今もそこに暮らしている。同君は、もともと首都デリー生まれのシティ・ボーイで、田舎嫌い。ところが、東京郊外のMaki Textile Studioで働くうち、手仕事と田舎の暮らしに目覚める。そして、いぶかる両親を説得して工房開設にこぎつけたのだ。今では両親も足繁くデリーからデラドンに通い、嬉しそうに工房の手伝いをしている。

 真木千秋もこの新工房にすっかり入れ込んでいる。というか命懸けという体だ。
 それでこんな小冊子まで作ってしまった。Makiの歴史の中でも初めてのことだろう。
 オールカラー14頁。
 ヒマラヤ地方の風土から、工房のたたずまい、そこで作られ始めた作品の一端をうかがうことができる。ラケッシュや真木千秋の寄稿も興味深い。

  (2010/9/2記)

 



島の色 静かな声
 
 沖縄・西表島の染織家・石垣昭子さんと、夫の石垣金星さん。Makiとも縁の深い御両人の営みを詩情豊かに描く75分のドキュメンタリー映画。
 スイス在住の映像作家・茂木綾子さんが五年がかりで撮り上げた作品が、このたびDVDで発売された。作品ホームページを開くと製作日記ショートムービーなどが見られる。
 以下は真木千秋による推薦文。

 この映画を作った茂木さん、半年くらいまえに来日して、到着した朝に竹の家に来てくれました。
 翌日には西表島での上映会に行くとのことでした。
 映画の中にほんの一分くらい、竹の家出行われた真南風(まあぱい)展でのファッションショーが出てきます。石垣昭子、金星さんの暮らしに密着した一年間の中のヒトコマとして。
 私も昭子さんが誘ってくれて、関係者の試写会を観にいきましたが、映像の美しさは口では言い表せません。昭子金星さんの素顔を何より捉えながら、全体ではアーティスティックな表現が印象的でした。
 監督の茂木さん、撮影中は常時厳しい表情でしたが、この間はとってもリラックスしていて、ニコニコ穏やかに自分の暮らすスイスでの活動のことなど話して、ゆっくりして帰られました。


サイレントヴォイスLLP  申し込みはこちらより。3150円
また同作品の写真集(カタログ)は竹林Shopでも販売。1500円 (09/6/14記)

 



自然がくれた愛情ごはん ― かるべけいこの野菜料理 ―
 
 九州・阿蘇の古民家で、夫や二人の子供ともども自給自足の生活を営む自然食料理家かるべけいこさん。自家の野菜をふんだんに使った料理の数々を四年がかりで本にまとめる。美しい料理写真は夫君・野中元さんによるもの。Maki布が随所にあしらわれている。
 以下、真木千秋による推薦文。

 かるべさんとは博多の沼田みよりさんが企画してくださった展示会でお会いしました。
 でもそのだいぶん前から、おいしいクッキーを作る方がいて、それも沼田さんのところで初めて頂いたのですが、少し後には百草にもあって、百草に行くたびにそのクッキーを頂いて帰ってきたものす。そのクッキーの作者がかるべさんでした。
 御本人と夫の野中さん、息子さんが博多の展示会に来てくださって初めてお目にかかったときは感激でした。すでにうちのストールや服を愛用してくださっていました。
 かるべさんも野中さんも素材感のあるストールや服がとても好きだと言ってくださり、ゆっくりと二人で選んでいた姿が印象的でした。
 昨年野中さんはここ竹林まできてくれて、ずっと撮り続けてきたかるべさんの料理を本にすることができると、うれしそうに写真を見せてくれました。その時にうちの布がたくさん使われていて、しかも暮らしの中で使ってとても良い風合いになったものもあって、とても面白いと思いました。
 お料理もちょっとした工夫で美味しく、体に心地よくいただける旬のお野菜中心で、ヒントになることがたくさんあります。お料理と彼らの暮らしぶり、とても素敵な本なので、みなさんにおすすめしたいと思います。


KTC中央出版 1600円 竹林Shopでも販売。 (08/6/30記)

 



インド 大地の布
 民族染織研究家・岩立広子さんによる写真集。
 岩立さんにとっては、「インド 砂漠の民と美」(1984年・用美社)に続く二冊目の著書だ。
 37年間、75回に及ぶ渡印の成果。

 岩立コレクションの特質は、表題「大地の布」に見るごとく、インド亜大陸を広く巡る旅の中で、現地の人々の間に生き続けてきた染織品を集めている点だ。
 今となっては再現できない手業も多く、インド染織の伝統を知る上で貴重な一冊。

 インドを東西南北に分け、それぞれの地方から収集品を美しいカラー写真で見せてくれる。
 その精緻な技は圧倒的だ。
 岩立さんが現地で撮影した写真も興味深い。男じゃなかなか撮れないだろうなあと思えるものも多々。肖像権じゃないが、人の写真を撮るというのもけっこう難しい作業なのだ。

 本書中には新井淳一さんも一文を寄せている。
 テキストはすべて日英併記なので、外国人でも読める。現地の英語表記もわかって便利。
 インドのみならず染織に関心あるすべての人々にお勧め。

 現在、東京駒場の日本民芸館にて本書掲載の染織品が展示されている(2007年10月3日〜12月20日)。本書を片手に同館を訪れてみたい。
 なお岩立さんは東京目黒にカディ岩立という店を運営。

 求龍堂 6800円+税。竹林Shopでも販売。 (07/10/19記)

 



魂の布 ― モンスーンアジア12人の女性作家たち ―
 副題にある通り、12人の女性作家を採り上げた本。
 作家というのはこの場合、布や衣の作り手だ。
 12人の中には、石垣昭子、真砂三千代、安藤明子、そして真木千秋といった当スタジオにとって欠くことのできない人々がいる。
 そして、秦泉寺由子、瀧澤久仁子、上原美智子、原口良子、ジョセフィーヌ・コマラ…さらに「モンスーンアジア」とくれば、いと懐かしき「現代の道具展」メンバーではあるまいか。(「現代の〜」とは十年ほど前に東京・玉川高島屋で展開した記念碑的な手仕事展)。

 著者の松本路子さんは、布の大好きなフォトグラファーであり、文章もよくする。
 となれば、本書がどのようなものかはだいたい想像がつくだろう。
 12人の作り手の工房を訪ね、美しい写真とともに、モノづくりへの想いが紹介されている。
 みずみずしいモンスーンアジアのたたずまいと、そこで育まれた布々の表情が忘れがたい。
 
 月刊誌『なごみ』に掲載された記事に、加筆・写真増補してまとめ上げられたもの。
 当スタジオには昨年九月、竹林Shop開店直前に取材があった。
 ま、秦泉寺さんのバリ工房、瀧澤さんのチェンマイ工房、石垣さんの西表工房などの取材に比べると、やっぱ距離に反比例して当スタジオの印象は薄めなんだが…。
 Makiについては竹林に御来臨いただくとして、なかなか訪ねる機会のない南国の布づくりの様子は本書でとくと御覧あれ。
 カラー写真多数。
 淡交社 2000円。 (07/3/22記)
 
藍から青へ ― 自然の産物と手工芸 ―

 
これはなかなかに面白い本だ。
 著者は元Makiスタッフの石田紀佳。
 スタッフと言っても2年少々で辞めてしまったのだが、その後も当スタジオ専任キュレータとして十年間、青山店の企画などに携わってきた。

 本書「藍から青へ・自然の産物と手工芸」、長いタイトルであるが、コンフォルトの3月増刊号だ。
 コンフォルトというのは、Maki とも縁の深い、「こだわり」のインテリア建築雑誌。
 この雑誌に2002年から二年にわたって毎月、石田紀佳が書きつづった「自然の産物と手工芸」という記事がある。
 それがこのたび一冊にまとまって出版された。
 藍、絹、綿、麻、蔓、埋もれ木、陶土、銀など、自然素材と、そこから生まれる手工芸品を、各章ごとに紹介している。
 手工芸素材のプチ百科事典のような趣で、いろいろ勉強になる。
 柿渋の項を読んでいたら自分でもやりたくなってきた。(ここ竹林には柿も数本あってほとんど利用していない)

 三谷龍二、赤木明登、真木雅子など、当スタジオにゆかりの深い作家達の作品も登場。
 「生糸」の項ではMaki が出てくる。
 梶原敏英さんによる写真も美しい。
 ブックデザインは拙著も手懸けてくれた山口信博さん。
 建築資料研究社 2000円。
 おススメ。
 今、新宿紀伊國屋に行くと平積みされてるらしいので、お手にとってご覧になると良い。
 大手書店が近くにない人は、こちらで注文できる。
 また竹林Shopでも販売中。 (07/2/9記)


ホームページへ